明晰夢

「夢の中で死ぬと危ないって知ってますー?」
「んぁ? 夢は夢だろ。バッカらし」
「それがそうとも言えないんですよー。夢を見ている時に、これは夢だ。だから絶対死ぬ訳がない。って、言い切れる人が何割いると思いますー?」
「あ、明晰夢ってやつ? 聞いた事ある」
「そーですね。夢だと分かって、夢を操れる人。術師のタマゴみたいなもんですねー」
「ふーん。フランはタマゴ越えてんの? ぴよっこ?」
「ぴよっこがヴァリアー幹部になれるとお思いですかー」
「そっか。ニワトリか」
「誰がチキンだってんですかー。この、鳥の巣頭ー」
「ししっ。オレの頭に住みたいんなら、がっつりウェイト落としてこいよ」
「イヤですよ。ミーだって住む場所くらいは選びますー」
「選んだ結果がヴァリアー幹部?」
「ここは単なる止まり木ですねー」
「いつか出てくの?」
「ですね、飽きたらー。センパイだって同じでしょー?」
「まーね。飽きたら」
「で、話を戻しますけれどー。夢を夢と認識出来ないって事は、それはその人にとって現実なんですー」
「ふん……まぁ、そん時はホントの事って思ってるもんな」
「そう。そこで、刺されたり、切られたり、潰されたり……死ぬような目にあったらどう思いますー?」
「どうって……痛い?」
「はい。痛い、苦しい、これは死んでしまう……そう思いこんだ結果。まぁ、死んじゃう訳です。ホントに」
「へ? なんで? 身体はなんともなってねぇだろ」
「思いこみで人は死ねるって事ですよー。面白いもんですよねー」
「へぇ、マジ?」
「マジですー。ショック死って言葉もありますし、例えば、人を動けないように縛って、目隠しでもして、腕にでも浅いキズをつけ、後は水の滴る音だけ聞かせていれば、勝手に衰弱して死んじゃうんですからー」
「……血が抜けてくって思いこんで死ぬってわけ?」
「そーゆー事ですねー。流石ベルセンパイ。理解が早くて助かりますー」
「バカにすんな。んでもそれって、すっげー地味でつまんない」
「だからこそ、ですよー。暗殺に一番向いてるんですー」
「たいしたケガもなく、気付いたら勝手に死んじゃってましたーっての?」
「そう。毒を使った形跡もない。死因はおそらく心臓マヒでしょう。ってなもんです」
「ふーん……なんだでもそれ、めんどくさいよな」
「まぁそーですねー。人を捕まえて、一晩水滴の音を聞かせるなんて、正気の沙汰じゃありませんよねー」
「だろ? やっぱりさっくりナイフで一撃。楽しいうえに超手軽」
「それを楽しいなんて言うのはアンタくらいなもんでしょーけど。まぁ。その、人の思いこみを利用した技術ってのが、幻術ってゆー事です。理解出来たら試してみますー?」
「オレは死なないって、分かってたら平気ってこったろ?」
「リアルな幻覚は現実と変わらないですよー? 死なないと思ってたって、大量失血したら死んじゃうよーなもんです」
「ししっ。当たんなきゃおんなじ」
「それはアンタも同じ事じゃないですかー」
「霧が嵐に勝てるかっつの。バラッバラに吹き飛ばされてから後悔すんなよ?」
「後悔するのはそっちですー」
「誰がすっか。マジシャンだったらそれらしく、バニースーツでも着てやがれ」
「ベルセンパイはそーゆーのがお好みですかー。つくづく変態なんですねー。はい」
「! 誰が王子に着せろっつったよ、バカガエル!!」
「よーくお似合いですよー、バカ王子」
「てんめっ! 死ねっ!」
「やーでーすー。ベルセンパイからお先にどーぞー」
「……ナイフが、全部ニンジンになってる……」
「ぷっ。あはははは、良かったですねー、お弁当いっぱいでー」
「てんめ……くそっ! ニンジン喉に詰まらせて死ね!」
「ぎゃっ。食べ物投げちゃダメですよー」
「食いもんじゃねぇしっ。オレの武器っ」
「あはははは、武器がニンジンとかー。隠しコマンドですかー」
「格ゲーじゃねぇっての! ……ちっくしょ。覚えとけよ、クソガエル!」
「あ、ベルセンパイが逃げた。…………あの格好のままで良かったのかなー。」
2011/8/15
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